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医療の質

棟近研究室では、安全で質の高い医療を提供するための仕組みである医療の質マネジメントシステム(QMS)の確立を目指し, 複数の病院とともに様々な研究を行っています.

QMSとは,質のよい医療を提供するための仕組みや業務のやり方のことです.安全な医療を提供するためには,医療固有の知識・技術が必要不可欠です. しかし,それだけでは不十分で,それらの知識・技術を活かすためのシステムとして,業務手順や手順に従って働く人,用いる機器・設備などが必要となります.このシステムをマネジメント(管理)するための仕組みがQMSです.

棟近研究室では,病院でのQMS構築に向けて,次のような研究に取り組んでいます.

醫生和病人

​医療のQMS

沃克的人

医療事故防止

填寫醫療表格

​臨床統計

注射器

QMS導入・推進に関する研究

QMS導入・推進モデル

医療の質・安全の保証は社会的な課題であり,そのためには組織的に管理する体制が必要です.そこで,組織的に質を管理し,改善していくための仕組みである質マネジメントシステム(Quality Management System=QMS)を導入する病院が増えています.

従来から,病院でQMSを導入,推進するためにISO9001,病院機能評価などの規格や要求項目が利用されています.しかし,病院の特徴を考慮して具体的にどのようにQMSを導入・推進をすればよいのかを明確にしたものはほとんどありません.そのため,病院でQMSを導入,推進する上で,様々な問題が発生しています.

棟近研究室では,病院で効果的,効率的にQMSを導入・推進するための方法論を確立するための研究を行っています.

【関連文献】
[1] 金子雅明,塩飽哲生,棟近雅彦,水流聡子,飯塚悦功(2007):“A病院におけるQMS導入・推進の困難モデル”,品質,37, [4],72-87
[2] 金子雅明,塩飽哲生,棟近雅彦,水流聡子,飯塚悦功(2008):“病院へのQMS導入・推進における阻害要因克服方法の導出手順の提案”,品質,38,[3],65-86

医療業務プロセスの可視化・改善方法

質の高い医療サービスの提供ができるかどうかは,診療業務プロセスの善し悪しにかかっています.これをより良いものにしていくことが重要であり,そのためには対象とする業務プロセスを改善しやすい形で可視化することが求められます. 産業界においては品質保証体系図,QC工程表などのツールが開発され,これらが各企業・組織の標準化,改善の発展に大きく寄与しました.しかし,医療においては製品・サービスが見えないことや顧客である患者と相互作用がある,顧客の多様性に対応しなければならないなど,工業製品とは大きく異なる特徴を有しており,これに合った方法論を開発することが重要です.

そこで本研究室では,可視化の基本ツールとして,複雑な業務の流れを比較的自由に表現できるプロセスフローチャート(PFC)を用い,PFCを活用した可視化方法に関する研究を進めています.具体的には,診療業務を可視化する上で必要な診療要素の標準化に関する研究や,看護業務の特性である業務の突発性や患者の多様性を考慮した可視化方法に関する研究などを行っています. そして,それらの研究を複数の病院に適用し,実際の病院での改善活動に貢献しています.

将来的には,これらの方法論をベースとして,診療業務のパターン分析,業務上の問題点を体系的に発見できる分析方法や,効果的な医療業務プロセスの設計に活かすなど,幅広い展開を今後,期待できます.

【関連文献】
[1] 遠藤充彦(2009):“医療の質マネジメントシステム構築における診療業務の可視化に関する研究”,早稲田大学修士論文
[2] 高橋裕嗣(2009):“標準化に向けた看護プロセスの可視化方法に関する研究 ”,早稲田大学修士論文
[3] 小川大輔,遠藤充彦,棟近雅彦,金子雅明,飯塚悦功,水流聡子(2009):“医療の質マネジメントシステム構築における診療業務の可視化・標準化に関する研究”,「医療の質・安全学会第4回学術集会抄録集」,pp.124
[4] 松森清暢,高橋裕嗣,棟近雅彦,金子雅明,飯塚悦功,水流聡子,香西瑞穂,前田陽子,井上文江(2009):“標準化に向けた看護プロセスの可視化方法に関する研究”,「医療の質・安全学会第4回学術集会抄録集」,pp.124

医療における内部監査の方法論

内部監査は異なる部署どうしが相互の業務をチェックし,業務プロセスの不備を見つける組織的な活動です.医療業務は医師,看護師,薬剤師など複数職種が協力して提供されるものですが,組織は職種ごとに形成されています.また,製造業と比べてやり直しがきかないという医療サービスの特徴を有しているため,事故が起きる前に業務プロセスの不備を様々な職種の視点からチェックし合うことは医療分野で特に重要です.

しかし,内部監査の一般的な方法は提示されているものの,具体的には示されておらず,医療において有効な内部監査が行えていないのが現状です.特に,監査の方針および監査の対象をどう設定すべきか,また監査に慣れていない医療者が効果的に監査できるように支援する監査チェックリストをどう作成すべきか,といったことは重要な課題となっています.

これらを解決するために,本研究室では内部監査の実施方法について研究しています.

【関連文献】
[1] 金子雅明,棟近雅彦,(2008):“医療機関へのQMS導入・推進における内部監査方法に関する研究”,「日本品質管理学会第38回年次大会研究発表要旨集」,pp.69-72

文書管理体系の構築

医療の質・安全保証の基軸となる医療業務のやり方を記述したものが文書であり,それらを組織的に活用しやすいようにする仕組みが文書管理です.しかし,文書管理に不備があるために,QMSの改善や標準化が進まないという問題が多くの病院で発生しています.

従来研究では,文書の作成・更新・承認・発行・保管・廃棄の一般的な手順は提示していますが,医療機関における文書の種類として何を有し,どのような体系で整理すべきかは明確になっていません.また,市販の文書管理ソフトフェアは高価で病院への導入が難しいので,安価な文書管理システムの開発も求められています.

本研究室ではこれらを研究テーマとして,研究を進めています.

【関連文献】
[1] 湯山正樹,棟近雅彦,永井庸次,高橋弘次,立石奈々(2005):“医療の質管理を目的とした文書体系構築に関する研究”,「日本品質管理学会第35回年次大会研究発表要旨集」,pp.57-60
[2] 下林里史,棟近雅彦,金子雅明(2008):“医療機関における文書管理の方法論に関する研究”,「日本品質管理学会第38回年次大会研究発表要旨集」,pp.73-76
[3] 金子雅明,棟近雅彦,飯塚悦功,水流聡子,田中宏明,中村洋平,進藤晃(2009):“医療機関における文書体系の構築に関する研究”,「医療の質・安全学会第4回学術集会抄録集」,pp.125

医療安全管理システムの構築

医療安全管理システムとは,医療業務上でミスが発生した際に情報を収集し,そのミスに対して対策を考え,その対策を実行する仕組みのことです.医療安全管理システムを以下の図に示します.

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安全管理システム

各プロセスに関してどこまで分析を深く行えば良いか,分析者に必要な能力が明らかでなかったため構築が困難でした.そこで,本研究室では,レポーティングにおいてどのような情報が必要か,分析者にどのような能力が必要かを明らかにすることで,医療安全管理システムを構築できるようにしました.

【関連文献】
[1] 木村允昶,棟近雅彦(2005):“医療事故防止システムに関する研究”,「日本品質管理学会第35回年次大会研究発表要旨集」,pp.45-48
[2] 德久哲也,棟近雅彦(2005):“医療事故防止における医療安全管理者の役割に関する研究”,「日本品質管理学会第35回年次大会研究発表要旨集」,pp.49-52

QMS・医療安全教育の実施

QMSや医療安全の活動を推進するためには,上記のような体制を整えるだけでなく,職員に対して,それらの活動に関する教育を実施しなくてはなりません.そこで,本研究室では,QMS構築や医療安全のための教育に関する研究を行っています.

今までの研究の成果としては,「医療事故防止ハンドブック」といった教育の教材を作成したことがあげられます.このハンドブックには,安全を確保する上で知っておくべきことや,よく発生する事故事例とその対策例,業務のプロセス図といった必要最低限の内容が記載されています.ハンドブックは持ち運びできる大きさ(A6判)なので,教育を実施する際はもちろん,業務実施時のちょっとした疑問を解決する際にも役立っています. この教育ツールの作成により,病院内の作業ルールの統一化を図る効果もありました.

最近では,医療安全教育項目の導出に関する研究に取り組んでいます.産業界に比べ,病院では教育体系の構築が遅れており,体系的な教育を実施できていないのが現状です.教育体系の構築には,まず,医療安全教育で教育すべき項目を明確にする必要があります. そこで,本研究室では,事故分析から教育内容を抽出する方法や,医療安全活動から演繹的に教育項目を導出する方法などを検討し,医療安全教育項目の全体像を提案しています.また,事故分析手法の教育や危険予知トレーニング(KYT)の教育など重要な教育に関しては,教育方法の検討も行い,実際に病院において医療安全教育を実施しています.

【関連文献】
[1] 小宮山慎一,棟近雅彦,井上文江(2005):“看護教育のための誤薬防止ハンドブックに関する研究”,病院管理,42, [3],107-119
[2] 小菅良平,棟近雅彦(2006):“医療事故低減を目的とした教育体系構築方法に関する研究”,「日本品質管理学会第36回年次大会研究発表要旨集」,pp.171-174
[3] 杉本 拓,棟近雅彦,金子雅明(2007):“医療事故低滅を目的とした教育システム構築方法に関する研究”,「日本品質管理学会第37回年次大会研究発表要旨集」,pp.45-48
[4] 梶原千里,棟近雅彦,金子雅明,田中宏明,井上文江(2009):“医療の質・安全教育項目の導出に関する研究”,「日本品質管理学会第39回年次大会研究発表要旨集」,pp.211-214

醫院

医療事故防止に関する研究

プロセス指向を実践するための事故分析手法「POAM」

与薬業務は,注射薬や内服薬を患者に投与する業務であり,決まった手順に従って行なわれています.与薬事故を防ぐためには,仕事のやり方に着目して手順を改善すること(プロセス指向)が効果的です.

本研究室では,医療従事者がプロセス指向を実践するための事故分析手法としてPOAM(Process Oriented Analysis Method for Medical Incidents)を開発しました. POAMは,事故状況を把握するために,与薬業務を「情報を受け取り,モノを取り,作業を行う」とした“与薬業務モデル”(以下の図がモデル図の例です)と,事故を誘発した要因を抽出する“観点リスト”を活用します.

 

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モデル図の例

本研究室では,病院の方々にPOAMを広めるために講習会を開いています.そこで,グループワーク活動を設け,POAMの実践の機会を提供しています.実際に,提案したPOAMを事故に適用したところ,医療従事者はプロセス指向を実践でき,与薬事故を低減できました.

 

【関連文献】
[1] 佐野雅隆,棟近雅彦,金子雅明(2009):“業務プロセスに着目した与薬事故分析手法の提案”,品質,39,[2],98-106

作業要素,エラーモード,エラー要因を用いた分析手法

医療事故を低減させるためには,(1)どのような作業をしているときに,(2)どのような事故が,(3)どのような要因で発生したのかを把握し,事故が多く発生している作業を重点的に改善していく必要があります.このような分析を行うために,本研究室では,次のようなことを検討しています.

まず,(1)の事故が発生している作業箇所の特定に向けて,与薬業務を,「看護師が医師の指示を確認する」,「必要なものを準備する」といった作業要素を用いて記述する方法を考えました.次に,(2)の事故の内容を把握するため,与薬業務の作業ミスを11個のエラーモードとして抽出しました.最後に,(3)の要因分析のために,ミスを誘発した要因をエラー要因として整理しました.そして,これらを用いた効果的な分析方法をいくつか提案しました.

導出した作業要素,エラーモード,エラー要因は一般化されているため,様々な病院の事故分析に適用することが可能です.そのため,病院間の作業方法や事故件数の比較を容易に行えるようになりました.

 

【関連文献】
[1] 尾崎郁雄,棟近雅彦(2005):“エラープルーフを活用した与薬事故低減に関する研究”,病院管理,42,[3],121-133
[2] 陳如,棟近雅彦,金子雅明,福村文雄(2009):“与薬事故低減のためのエラープルーフ化対策立案方法に関する研究”,「日本品質管理学会第39回年次大会研究発表要旨集」,pp.191-194
[3] 佐野雅隆,棟近雅彦,金子雅明(2010):“作業要素を用いた業務の記述方法に基づく与薬事故の傾向分析手法の提案”,品質,40,[2],45-54

情報伝達エラーの分析手法

病院では,医師や看護師をはじめ,複数の職種が連携をとりながら業務を実施しています.そのため,的確な情報伝達が不可欠です.患者状態や日々の現場環境の変化に伴い,必要な情報は異なり,それらの変動に対応していくことも求められます.さらに,24時間継続した医療を提供するために,交代勤務で業務を遂行していることも,情報伝達を難しくする要因となっています.したがって,安全な医療の提供に向けた適切な情報伝達方法を確立するための手法が必要です.

本研究室では,医療業務の情報伝達方法を可視化し,情報伝達ミスが発生するメカニズムを明らかにしようとしています.さらに,情報伝達ミスを低減するため,病院で発生した情報伝達ミスを収集・分析し,適切な情報伝達方法の設計に取り組んでいます.

 

【関連文献】
[1] 星野元宏,棟近雅彦,金子雅明(2007):“病院における情報伝達設計に関する研究”,「日本品質管理学会第37回年次大会研究発表要旨集」,

pp.57-60

患者間違い事故の分析手法

患者間違い事故は,今なお病院で慢性的に発生している事故です.病院では,患者間違い事故を防止するために,様々な防止策を講じていますが,効果的な解決策となっていないのが現状です.本研究室では,IDというものに着目し,患者間違い事故の要因について分析を試みました.IDとは,患者を識別するために用いられる情報のことを指します.例えば,氏名や保険証番号,生年月日などが病院で用いられているIDと言うことができます.病院では,これらのIDを用いて患者確認を行っています. しかし,患者を正しく同定できないため,事故が発生する場合が少なくありません.また,IDに着目した分析手法が存在しないため,事故の問題点を把握できず,事故低減につながっていないのが現状です.

 

そこで本研究室では,作業方法とIDの問題点を抽出し,患者間違い事故を分析するための手法について研究を行っています.そして,患者間違い事故を防ぐための対策について研究を進めています.

標準不遵守による事故の分析手法

決められた作業方法を守らずに事故が発生することがあります.標準に対する知識・技能は十分にもかかわらず,遵守しないために発生しています.従来,これらの事故は作業者の動機付けの問題と考えられてきました. しかし,標準が作業者にとって遵守しにくいという問題も同時に存在します.それらの事故を防止するために,作業者の動機付けだけでなく,標準を遵守しやすく改善する必要があります.

 

本研究室では,作業の不遵守が発生するメカニズムを明確にし,不遵守の分析方法を考えています.さらに,標準不遵守の改善方法の研究に取り組んでいます.

【関連文献】
[1] 高山陽平,棟近雅彦,金子雅明(2008):“規則違反に起因する医療事故の分析手法に関する研究”,「日本品質管理学会第38回年次大会研究発表要旨集」,pp.77-80
[2] 中太彩子,高山陽平,棟近雅彦,金子雅明(2009):“標準作業方法の不遵守に起因する医療事故の対策立案方法に関する研究”,「医療の質・安全学会第4回学術集会抄録集」,pp.126

転倒転落事故の防止に関する研究

今まで説明してきた分析手法は,決まった手順に従って業務を実施しているときに発生した事故が対象です.しかし,病院では,そのような事故だけでなく,転倒転落事故やチューブの抜去事故といった患者要因によって発生している事故も少なくありません.その中でも,転倒転落事故は病院内で多発している事故であり,外傷・骨折など患者の負担を増大させる原因となっています. 病院では事故低減に向けて様々な取り組みを行っていますが,転倒転落事故は症状や年齢といった患者要因により発生することが多いため,決定的な対策の方法論は存在しません.

転倒転落事故を防止するためには,患者の転倒する危険度を的確にアセスメントし,その結果に応じて看護計画を立案する必要があります.本研究室では,転倒転落事故の防止に向けて,(1)アセスメントシートの改善,(2)転倒看護計画の作成,(3)転倒転落事故分析手法の提案,といった研究を行ってきました. (1)は,数量化Ⅱ類を用いて,事故を起こす危険性を高める要因を抽出し,その項目を用いてアセスメントシートを作成しました.(2)は,事故報告書をもとに,転倒転落事故が発生しやすい歩行,車椅子,ベッド,排泄時の4つの場面の標準看護計画表を作成し,チェックをするだけで,看護計画を立案できるようにしました.

(1)と(2)の提案により,患者のアセスメントと看護計画立案は容易となり,共同研究先の転倒転落事故は減少しました.現在は,(3)の事故分析手法の開発に取り組んでいます.発生した転倒転落事故の要因をさらに詳細に把握し,よりよい対策を提案することを目指しています.

 

【関連文献】
[1] 藁科えりか,棟近雅彦,高橋高美,井上文江(2005):“転倒・転落事故低減に関する研究”,「医療マネジメント学会雑誌集」,4-1,pp.145
[2] 志田雅貴,棟近雅彦(2006):“病院における転倒転落事故防止に関する研究”,「日本品質管理学会第36回年次大会研究発表要旨集」,pp.123-126

臨床統計に関する研究

臨床統計に関する研究

臨床化学検査とは,健康および疾患時の動態を化学的に解明するため,血液に代表される人間の体液中の化学成分を測定し分析することです.ここで測定される値には,無視できない誤差が付随するため,試料濃度の真値を知ることができないという特徴があり,測定の精度管理が重要な課題となっています. このために外部精度管理調査と呼ばれる調査が行われており,この調査に関する様々な問題について研究を行っています.

また,病態判別に関する研究にも取り組んでいます.測定した値を用いて病態判別を実施する際には,体位や性ホルモンなどの影響が交絡して正しい判別ができなくなる場合があります.さらに,検査値が時系列データとなっているため,時系列分析も考慮しなくてはなりません.これらの課題を解決するため,本研究室では,検査値の分析方法や様々な影響の把握に関する研究に取り組んでいます.

 

【関連文献】
[1] 石井成,棟近雅彦(2001):“探索的データ解析を用いた基準範囲の設定”,臨床化学,30,[1],49-57
[2] 石井成,棟近雅彦(2003):“臨床化学検査の外部精度管理調査に用いる試料の性状評価法”,品質,33,[1],118-127
[3] 石井成,棟近雅彦(2004):“臨床化学検査の外部精度管理調査における変質試料の検出”,臨床化学,34,[2],189-197

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